独:Der Alte würfelt nicht.
「…泣くなって。嗚呼もう…困ったなぁ…」
「ううっ…うううっ!ローズは怖いのです、ぶたないでください、殴らないでくださいッ!痛いのは嫌いなのです怖いのはもっと嫌なのです!!来ないでほしいのですよっ!」
「…誰もお前をぶたないよ。お腹空いてるだろう?髪を乾かして、俺のパジャマに着替えて、ちゃんとソファーに座れたら美味しいお菓子をやる。今ならミルクティ付きだ」
「う…っうう…本当、なのですか?…お菓子なら食べたいのです…ううっ…ミルクティなんてもうずっと飲んでないのです。ローズは…ずっとお腹が空いてるのですよ」
両手で腹部を抑え、へたりと床に膝をついてうな垂れる少女。
栄養剤の投与もあり、肌の血色はマシになっていた。
しかし頬は、栄養失調だったせいもあり脂肪がそぎ落ちている。
ダストチルドレンを実際に見た事はなかったが、その体の肉付きからして相当粗雑な生活をしているように思えた。
「綺麗な上流階級の言葉を使うな。言い回しは変だが発音は正しい。ローズという名前なのか?ダストチルドレンになってから長くないのか?その服も…汚れているがちゃんとしたブランド物だし…何処から流れてきた」
「…ううっ…アンネローゼと言いますのです。お洋服は…っひうっ…帽子屋さんからもらったのです。後は、わ、わからないのです。白兎と…っずっと一緒にいて…白兎はどこかに行ってしまいまったのです。ううっ…ローズは…白兎を探さないといけないのですよ」
「アンネローゼ…天使の薔薇か。綺麗な名前だ、よく似合ってる。…あの場所には白兎は居なかったな。部下に周辺を探すように言っておくよ」
「もう…随分前に白兎はどこかに行ってしまったのです。でもローズは…会いたいのですよ。会わせて…くれますか?」
窺うように下から見つめられ、無垢な瞳と視線が交わる。
水気を含む髪に手を置き、頭を数回撫でた後、首を縦に振った。
瞳を輝かせて喜ぶローズは、無邪気に俺の腕の中に飛び込んでくる。
着替えた服にローズの洋服の水分が染みてくるが、体に抱きつかれて悪い気はしない。