独:Der Alte würfelt nicht.
「お兄さんはいい人なのですっ。さっきは噛んでごめんなさいなのです。まだ、痛いのですか…?」
「平気だローズ。それに俺はお兄さんじゃない。ウィリアムだ。お前を当分の間預かる事になったから、よろしく」
「ウィ…ウィリア…う…お兄さん、よろしくお願いしますなのです」
「ウィルでいいよ。お兄さんはちょっとくすぐったいな。とりあえず髪を乾かそう。風邪をひいてしまう」
ずっと泣き顔ばかり浮かべていたローズが、満面の笑みを浮かべて頷く。
その顔が余りにも可愛くて、不道徳な感情が芽生えてしまいそうになった。
笑顔を花束に、両腕をいっぱいに広げて俺に抱きついてきた時には、一瞬ロリコンでもいいかと思ってしまった。
寸前の所を大人の理性で押さえこみながら、必死で一線を保つ。
「待て、道を外れるな俺ッ!俺は常識人だ、落ち着け、平静を保てッ!青い果実を食してはいかん!!」
「ウィル、ウィルっ!早く髪を乾かしてくださいっ!ローズはウィルとお茶がしたいのですっ。甘いものを食べると幸せな気分になるのですよ」
「何だ、えらくご機嫌だな。お菓子なら腐るほどあるからたくさん食べていいぞ?とりあえず今は、服を着替えて髪を乾かすんだ。お茶はその後。いいね?」
「はいっ!ローズはウィルの言う事をちゃんと聞きますのですっ」
ローズの濡れた髪をバスタオルで拭いていると、こんな年齢の少女には本来ある筈の無いものが見つかった。
湿気の含む長い髪を一つにまとめ、白い首筋を晒した時だ。
明らかに虫刺されでは無い赤い点が数か所、疎らに付けられている。
それを指先で無意識になぞると、ローズはくすぐったいと肩を震わせた。
俺はあまりにそれが不埒なものに見えて、隠すようにまとめていた髪を散らした。