独:Der Alte würfelt nicht.
「…ローズ、お前さえよければ施設に入れてやる。俺が後見人になるから、今より確実にいい生活をさせてやれる。うさぎを見つけたらだが…どうだ?」
「ローズはうさぎを探さないといけないのです。その先の事はまだ考えられないのですよ。ウィルは優しいのです、白兎と同じぐらい優しいのです。ローズは嬉しいのですよ」
「ま…強制はしないよ。取敢えずうさぎを探そう。話はそれからだな」
「ありがとうなのですっ!ローズは兎に会えるのですね!嬉しいのですっ」
無邪気に笑うローズは、俺の渡したパジャマに素直に着替えてソファーに座っていた。
長い髪はタオルであげて、水分がある程度抜けるまで待つ事にする。
温かいミルクティを入れ、ローズの前に置くと何かを探すようなそぶりを見せた。
俺はローズの探し物を見つけ、角砂糖の入った瓶のふたを開けてやる。
「ひとつ…ふたつ、みっつ…よっつ…いつつ、むっつ、ななつ…やっ――」
「おいおい、入れ過ぎだ。そんなに入れたら砂糖の味しかしないだろう!?ああ…ジャリジャリ言ってる…。牛乳紅茶風角砂糖仕立てみたいになってるぞ…」
「甘くておいしいのです。お菓子もサクサクふわふわなのですっ!ウィルはお菓子の天才なのです~!きっと、お菓子のお家も魔法みたいに造れちゃうのですね!?」
「よかった、口に合って。男らしくないって言われるんだが、やっぱり好きなんだ。等身大のお菓子の家は難しいが、近いうちにミニチュアなら造ってやるよ」
お菓子の家を造ると言う約束をした途端、ローズの目がキラキラ輝いた。
サファイアのような青瞳が本当の宝石のように煌めき、俺に羨望の眼差しを向ける。
今まで俺の作ったお菓子を見ると、男らしくないだの、ダイエット中の嫌味だの、甘いものは嫌いだという批判的な言葉しか言われた記憶がない。
目の前で幸せの絶頂はこういう顔だろうと思うほど、手当たり次第出されたクッキーやスコーンを口に頬張り声にならない悲鳴を上げるローズ。
ぶかぶかのパジャマにクッキーの破片が落ちるが、そんなことにも気付かないほど夢中だった。