独:Der Alte würfelt nicht.


「あ、…悪い、起こしたか」

「…ウィル…」

「ん?」

「…ローズは、ウィルに迷惑をかけていますか…?」


俺の胸に置かれていた手の平が、首筋を伝って頬にたどり着く。

くすぐったい感触に身をよじるが、心地よい肌触りの指がぺたぺたと頬を行きかう。

まるで顔の造形を確かめるように、それは何度も繰り返された。

目の前にその小さな顔が近付き、動揺してはいけないと分かっているのに心臓が跳ね上がる。


「迷惑なんて…かけてないよ。たくさん甘いお菓子を食べて、幸せな夢を見るんだ。もうお前の未来に…悲しいものが何一つないといいな」

「ローズは平気なのです。…ウィル、悲しい顔をしています。ウィルもローズみたいに怖い夢を見たのですか?」

「…そうだな、怖い夢。怖い夢を見たんだ。ローズもよく見るのか?」

「怖い夢なのです。でもこうすれば大丈夫なのですよ~」


ローズの手が、俺の両頬に掛かり…うにぃ、と引き伸ばされる。

キャッキャという可愛らしい声を上げて、頬を吊り上げられるのだ。

足をバタつかせ、俺をまるでおもちゃの様に遊ぶ。

小さな手なのに、掴む力は予想以上に強くて、頬にじんわりと痛みが広がった。


「い、いひゃい、いひゃい…ッ」

「ウィルもにーってするのですっ!怖い夢を見た時はこうするって教えて貰ったのです!だからウィルも…う、ウィル?どうしたのですか?」

「わかった、わかったよっ。笑うから、こら、痛いっ…痛いってっ」

「あ…ごめんなさいなのです。痛かったのですか…?」


怒ったのが怖かったのか、俺の頬から手をおずおずと引く

ローズは俺に怒られて今にも泣き出しそうな顔をする。

今度は俺が逆にローズの頬を痛くない程度につまみ、俺も口元に笑みを浮かべる。

ローズもそれを見て笑顔になり、涙の浮かんだ目元を服の袖で拭った。

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