独:Der Alte würfelt nicht.


「すごいな、ローズのおまじないは効果抜群だ。俺も上司にいじめられた時に使わせてもらうよ。それに言った傍から本人が泣くんじゃない」

「白兎が教えてくれたのです。だからお礼は白兎に言ってくださいなのです!」

「白兎か。お前の大切な友達だったんだな。きっと見つけてやるよ。そしてお礼を言わないとな」

「はいっ!きっと白兎も喜んでくれるのです!ウィルもきっとお友達になれるのですよ~っ」


 ――こんなに優しい子が、事件の加害者なんて…そんなことあるわけないじゃないか。


ダストチルドレンとは、親に見放され、社会にも見放されたID不所持の子供たちだ。

国によって管理されるべき存在だが、度重なるゲリラ活動などによって所在の特定ができないのだろう。

そのほとんどを指揮しているのが大人だが…子供たちが人数の大半という事実には変わらない。

一部は売り買いされたり、ローズのように…その、不埒な対象として扱われたりするのだろう。


「――…もしも、もしもな。…行く当ても、帰る場所も無いなら…」

「ウィル…?」

「…その、なんだ」

「どうしたのですか?」


ローズの髪を一束救い上げ、触り心地の良い、長い髪に触れる。

言葉を発しようとした瞬間、ローズの瞳に、俺の姿が映っているのが見えた。

それがあまりにも酷い顔をしていたから…一気に正気に返る。


 ――何を言おうとしてるんだ、俺…。


ローズはまだそれを望んでなんかいないんだ。

俺の善意を押し付けて、彼女の意思を捻じ曲げる事なんてしてはいけない。

シャーナス将軍に言われた言葉を思い出し、俺は唇を強く噛みしめる。

俺の中に芽生えつつある感情を抑え込み、ローズの頭に手を置いた。


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