独:Der Alte würfelt nicht.
「――で、…生活するとは言っても…、服とかな…。ずっとそのままっていうのも…」
「ウィル、どうしたのですか?」
「ん、気にするな。何とかしてやるよ」
「よくわからないのですが…お願いするのです」
目元を服の袖で擦り、大きく欠伸をするローズ。
そんなに遅い時間でもなかったが、今日は色々あったせいで疲れたのだろう。
部屋の寝室にある2つのベッドを思い出し、その片側は空いていた。
ある日を境に一度も使われていなかったベッドを使うのは、当分先だと思っていたのに。
こんなに早くシーツを引き直すとは思っていなかった。
「おいで、ローズ。寝室に案内するよ、俺はまだ起きてるけど…眠いんだろ?」
「はい…ローズはもうくらくらなのです。ふわふわするのですよ」
「はは、それはいけないな。シーツを引いてあげるからもう眠りなさい」
「ウィルは眠らないのですか?ならローズも起きているのです」
変な所に気を回すと思ったが、瞼が重たくて開けていられないローズ。
洗いたてのシーツを手に取ると、ローズが手伝うようにそれを奪った。
小さな手を握り、二階まで階段を転ばせないように進む。
寝室に案内し、シーツを引いてローズが体をベッドに横たえる所まで見届ける。
「おやすみ、ローズ。いい夢を」
「…お休みなさい、ウィル。ローズは…幸せの夢を…見てみたいのです」
「見れるよ。夢の中ではお菓子がいっぱいだ。お菓子の家だって…夢の中なら――」
「…ん…ふ…ぅ…」
顔に掛かる前髪を指先で払えば、露になる無防備な寝顔。
あれだけうるさいと感じていた雨音は、いつの間にか俺の耳から離れていた。