独:Der Alte würfelt nicht.


 ――目の前に立つのは俺にもったいないほどの可憐な美女。

白百合を基調とした花嫁衣裳を身にまとった“エリザ”は俺に笑いかける。

長い金の髪を高い位置でまとめ、真っ白な首筋を露にしていた。

煌びやかな宝石が散りばめられたドレスを、ほんのり頬を染めて着こなしている。


『どう?似合うかしら…』

『とても綺麗だよ、エリザ。…まるでお姫様みたいだ』

『ふふふ、褒めたって何も出てこないわよ』

『来週の結婚式、…楽しみだな』


いつも聡明な彼女が見せる真っ赤になった顔が大好きだった。

はにかんだ笑顔が堪らなく愛おしく、永遠に守っていこうと誓った。

それを見るためなら…歯の浮くセリフを何百回でも囁くつもりだったのに。

なのに…君は、俺を置いて行ってしまったんだね。


『――ごめんなさい…やっぱり貴女とは結婚できないわ――…』

『…どうして、…いきなりそんな…ッ!明日は結婚式なのに…!』

『わかってる、…わかってるわ…ッ!私も貴女の事が好きよ…、でも、…それだけでは…幸せには…なれないわ…』

『じゃあどうすればいいんだよッ!』

『無理よ…だって貴女は――…』


ストークス家の親族総出で行った結婚式には、俺以外の三家も祝福するため同席していた。

その中俺は、来るはずの無い新婦を何時間もバージンロードの先で待ち続けた。

開始時刻が数十分すぎるけれど、主役の一人が現れない結婚式には、ちらほら帰りはじめる親族の姿が目立った。

特にひぃひぃ腹を抱えて笑いながら、予定時刻の5分後に教会を後にしたシャーナス将軍の事を今でも覚えている。

でも、花嫁に逃げられて同情されるより、清々しく爆笑された方が幾分かましだとも思った。


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