独:Der Alte würfelt nicht.
「こら、イチャついてないで早く連れて来い」
「…ローズ、立てるか?」
「はい…立てます。ローズは行くのです」
「まったく。手間をかけさせるな」
ローズがシャーナス将軍に背中を押され、建物の奥へと行く様子を心配しながら見送る。
待合室でこれでよかったのかと自問自答していれば、随分と早く戻って来た。
時計で時間を確認するが、10分も経たずに戻ってきたシャーナス将軍に詰め寄る。
それを不愉快そうに払われ、俺に背を向けて出口へと向かうのだ。
「おい、ローズはどうなったんだよ!記憶は戻ったのか!?事件との関連は――」
「もう今後二度とあの娘には会うな。まぁどうせ…会えないだろうがな」
「…はぁ…!?な…そんなことって!!」
「…それより行くぞ、仕事が入った」
病棟を出ようとするレイの肩を掴もうとした瞬間、奴のインカムが何かを受信する。
それの少し後に俺のインカムも反応し、耳元を手の平で覆って意識を集中する。
『――第1エリアによりテロ発生。至急現場に急行せよ。繰り返す…第1エリアによりテロ発生。至急現場に急行せよ』
「第1エリアだとッ!?あんな大都市でテロなんか起こったら――…」
「今は仕事だ、行くぞ」
「――わかった。…でも終わったら絶対ローズの事を説明しろ。絶対だぞ」
「あぁ、分かっている」
背中を追いかけながら、心の中で何度もローズに謝る自分に嫌悪を覚えた。
軍に準ずる事も出来ず、ローズの事だって曖昧なままだ。
見くびるなとローズに言った自分が恥ずかしくなり、指が白くなるほど握りしめる。
何度も病院を振り返りながら、俺はテロの起こった第一エリアへ向かった。