独:Der Alte würfelt nicht.
「――アリス、アリス…ッ!」

「…ンっ…う、るさい…人が折角寝てるのに…低血圧の人を起こす時はもっと繊細に…」

「何呑気なこと言ってるんだよ、起きるんだ。ほら…ッ」

「あれ…制服着てる…?ここ…学校じゃない…減点される…ッ…あれ、カノン君…?何してるの…」


変な夢から目覚めるときは、決まってカノン君が起こしてくれる気がする。

いや、逆かもしれない、彼が起こしに来るから…悪夢を見るのだろう。

耳鳴りがするほど痛む頭を押さえて、冷や汗の浮かんだ自分の顔が端末の画面に映った。

端末を落とした覚えはなく、室内を照らす照明が一段階暗く設定されているのに気付いた。

停電か何かしたのだろうか、非常用の供給に切り替わっている。


「いつもの時間と場所で待ってたのに、君が来なかったんだ。外が慌しくなってさ、いつもはセキュリティーで入れないけど、今日はすんなり入れて…大変な事になってるみたいだね」

「大変な、こと…ね。地震か何かで復旧の際にシステムが誤作動でもしたの…?」

「違うよ。事態はそれ以上に深刻だ。僕らは人質…いや生贄と言うか」

「だから、何を言っているの…?寝起きは頭が回らないのよ…どういうこと…」


何時もは物音一つしない教室では、ドアを何度も叩く音が繰り返される。

本能がこの違和感と危険を感じ、声にならない叫び声を上げる生徒もいた。

私の個室はカノン君が入って来たように開くみたいだが…他のはオートロックが掛っているようだ。

その内復旧するだろうと楽観的に考えれば、混乱した場に似つかわしくない軽やかな音色と共にアナウンスが流れる。


『アーア…えぇと…何々。…はじめまして、無知な糞餓鬼ども。俺の名前はノエル…?催眠ガスで目が覚めた奴らは聞くんだな、ははは。今から一時間ごとに一人一人、殺しにいくだと…!?おい、どう言う事だ!俺はこんな話聞いてなッ――』


スピーカーが一旦切られて、再開するのに数秒の間を置いた。

たちの悪い悪戯だと信じたかったが、端末も強制遮断されているし強ち冗談ではないらしい。

実行犯は二人以上で、一人は強要されているようにも思えた。

少し時間を置き、またスピーカーが繋がる。



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