独:Der Alte würfelt nicht.
『…俺たち…え、俺?俺の要求は…ある人間をこの場に連れてきて欲しい。警察にも犯行声明は…送ったんだろ?あ、俺が送った』
「何よこれ…ぐだぐだの犯行声明じゃない。私の方がもっとマシなこと言えるわよ」
『〈馬鹿な事出来ない様に、全部の端末の電源を落としておきます。大人しくしていてくださいね。妨害電波をこの地域に張り巡らせているから、連絡手段は無し〉』
「人が…変わったね、音声が加工されてる。アリス、怖いなら僕の腕の中で震えてもいいからね」
カノン君の不要な申し出に反応する事もなく、ルカとの共同制作の為に用意していたノート型端末を起動させた。
バッテリーで動いているので数時間は稼働できるので、これは無事だったが…教材用の端末は起動した時点で強制遮断が掛るかもしれない。
音声の解析はツールが入ってないから後回しにするとして、今は放送を録音しておくことが先決だろう。
回線が復旧したら、警察に連絡して音声ファイルを解析してもらう。
IDには声紋も登録されているので、そこから実行犯を割り出すのも可能だ。
回線が繋がり次第、ファイル転送が始まるように設定し終えたノート型端末を閉じる。
『〈数ヶ月前、パンドラのシステムの一部をダウンさせた若き天才科学者。そいつを要求する〉』
「――ッ…わ、…わた――!!」
「ストップッ!こんな所でそんなこと言ったら、もっと混乱するよ!此処は穏便に…落ち付くんだアリス、ほら、ひっひっふー…ひっひっふー…」
「何で…そんな、私…!?一体何を――ッ」
誰が一体何のために…私を血祭りに上げないと済まない人がいるっていうの!?
混乱して声をあげそうになるのを、今度はカノン君の手の平が塞ぐ。
隙間から空気の抜ける音が、周りの騒音に書き換えされる。
騒ぎ出す生徒達にまぎれて、私は声にならない悲鳴を上げるしかなかった。