独:Der Alte würfelt nicht.
「――私、行かないと…ッ!嗚呼、でもそんな事したら…私とレイが繋がっている事が漏れるかもしれないし…!えぇと、とりあえずレイと連絡を――」
「逃げようよ」
「は…?何言って――」
「このまま逃げちゃおうよ。きっと危ないしさ、助ける義理もない。名指しで指定するって事はこの場所に居るのは分かってるけど、誰かは分からないってことだろ?」
カノンの手が私を留め、ここから出るなと言うように強く力がこもった。
鬱血してしまうのではないかと心配するほど締め付けられ、指先が軽く麻痺する。
手を振りほどこうとすれば、思いのほか簡単に離されて体をふらつかせてしまう。
よろけた私を支えたカノンが、あまりにも真剣そうに私を見つめる。
「…どうせすぐ分かる事よ。事件の直後に現れた季節外れの転校生。まず一番に疑われるわね。翌日には一面だわ。でも行けば…レイの事は公表しないでくれるかも」
「マスコミが気になるなら帰ってすぐに圧力をかけてあげるよ。そしたらさ、今日は“何もない日”で終わる。それでいいだろう?君は困らないし、レイ・シャーナスにだって好都だ」」
「ここに居るみんなを…このままにして行けって言うの!?」
「当り前だろ?その内軍が制圧に来る。2,3人犠牲になるだけだ。君には実害はなくなる。それに大した損害じゃないしね」
あまりの暴論に、開いた口がふさがらないという事はこう言う事を言うのだろう。
彼の言葉にあきれ返り、これ以上離話しても無駄だとあきらめる。
握られた腕にギリッと爪が食い込み、鈍い痛みが走った。
行くなと、無言で伝えるカノン君は今まで見た事の無い表情を見せる。