独:Der Alte würfelt nicht.
――早く内部の情報を軍に伝えないと…殲滅されるときに一般生徒が被害にあうかもしれない。
無人の廊下を体勢を低くして、出来るだけ音を立てないように静かに走る。
出来ることは多くない、そのことは自分が一番よくわかっていた。
軍に連絡をつけて状況を詳しく説明する、そして出来るだけ解放を急ぐこと。
私を要求していることから、パンドラのシステムを悪用しようとする輩がまた現れたのではないかと憶測した。
「…廊下ってッ…こ、んなに…長かったっけ…!?」
少し走っただけでも息が切れ、心臓の音がうるさくなる。
連続する教室の扉、どこまでも続く廊下に足を止めようと考えたが本能がそれを許さない。
振り返れば誰かが襲ってくるのではないかと言う恐怖感の中、必死で絡まりそうな足を動かす。
喉の奥に鉄の味が広がり、酷く脇腹が痛む。
「う、…きっつぃなぁ…!!」
横に通り過ぎていくガーデンテラス、名手が書いた有名な絵画が飾られた壁。
私がいた場所とは真逆の場所を目指し、重たくなりつつある足に鞭を打ち走り続けた。
「――はぁ…ッ…は、…はぁ…ッ!」
カノン君ならきっと私を背負って、軽やかに廊下を駆け抜けてくれるに違いない。
しかし私がいるはずの個室に誰もいなかったら、テロリストに感ずかれる。
使用履歴を調べられてしまったら、学園銃をしらみつぶしに探されるかもしれない。
数千人もいる学園の生徒の中から、個室ごとに生徒を確認するのは至難の業であったし、入る場所は日によって違うので、彼がいても怪しまれないだろう。
眠った彼を体育座りにして、さもこの状況に絶望している一般生徒のようにしたので演出も完璧だった。