独:Der Alte würfelt nicht.
――嗚呼…酷い頭痛がする、雨は止んだというのに…。
アリスと連絡がつかなくなって約1カ月、その内の数週間は病院のベッドの上で眠っていた。
眠っている間は見舞いに来てくれているだろうと高を括っていたが…どうにも状況は悪い方向に向かっているらしい。
覚醒した後に知らされた話だが、アリスは随分前にあの施設から逃げ出しているというのだ。
それも…ハーグリーヴスの回し者と一緒に、だ。
――まったく…見せつけられたものだよ。
監視カメラにはアリスが逃げ出すまでの様子が残され、そこには奴の姿も映っていた。
さも善良ぶった様子で小賢しい事を吹き込み、カメラに向かって数回視線を送ってくる。
あからさまに私を挑発するための、幼稚な行為と笑い飛ばす所だが…。
監視カメラの映像を自ら入手して…私の枕元に置いていたのだ。
――あんなのが王子様だなんて…君は悪趣味だよ、アリス。
春の日差しはもう眩しく、太陽の光を遮ったと言ってもその存在は消えない。
こんな憂鬱な日差しなど浴びずに、君とテラスのパラソルの下でお茶をしたい。
やっと手に入れた希少な茶葉を一人で飲む気にはなれず、ずっと戸棚に仕舞いっ放しだ。
同僚が焼いてくるスコーンだって、君が食べてくれないからゴミ箱行きじゃないか。