独:Der Alte würfelt nicht.
こうも緊迫した雰囲気が漂うのは…例年減少傾向が見られたテロが、学園と言う神聖な場で行われたからだけではないだろう。
一般人が近寄らないようにバリケードを設け、いつでも犯人を射撃できるように狙撃班が待機している。
テロ行為はどんな理由があろうとも殲滅対象になり、即座に制圧する事を原則とする。
しかし今は学園内部の状態が詳しく分からないので、下手に手を出せないのだ。
「――風向き…雲行きも悪いな…。おい、状況は?」
「睡眠ガスで眠らされた生徒たちが人質にされ、テロリストが立てこもっている模様です」
「典型的な引きこもりパターンか…だるいな。早く終わらせて書類整理をしたいのに…」
「そう言わないでください。シャーナス准将が有給で休んでいる間…皆、サービス残業を続けて仕事を回らせていたんです」
現場を指揮をしないといけないのに、横からサインを待つ書類を回すのはユーリウス・キャストン中尉。
私のIDには一定の書類に許可を出す権限があり、通さないと上に提出するのが難しくなる。
自分たちの仕事は早々に片づけ、後は私の許可待ちという状況まで持ってきていると知り…中々有能な部下達だと再確認させられた。
まぁ、一部の奴を除いて…だが。
「シオン…無事でいてくれよ…!」
「嗚呼、確かお前には妹がいたな…腹違いの」
「でも家族なんだ。きっと今…教室で震えてる、そうに違いない!」
「…はいはい…」
ウィリアム・ストークスはパンドラ軍士官学校を首席で卒業後、輝かしい学歴を引き下げて入軍してきた。
始めのうちはストークス家の人間だと思って、色々と気を使ったりしたものだ。
しかし奴は…気を使ってヘコヘコしている私の前で…この世で一番許せない事を、目の前でやってのけたのだ。
今思い出してもおぞましい行動に、あいつを見ると取敢えず鈍器で殴りたくてうずうずしてしまう。