独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
走り見る間にも何度も繰り返されている単語だけは、辛うじて読み取ることができる。

私は一度で理解できる言葉を、何度も何度も繰り返し目に焼き付けて、その意味を理解しようとした。


「…何よ、これ。何かの研究資料…?でも、え…この言葉…人間に使うものでは…」

「ある施設に“黒羊”と呼ばれる子供がいた。その内の数人は死んだが…残った人数は3人。ある施設で徹底した管理と、教育を行ってきた子供達のことだ。しかし施設が閉鎖し…子供達はこの世の中に散ってしまった」

「“黒羊”ね…。実験体には最適な名前だわ。その子供たちが何?万引きでもして店が何店舗か潰れたのかしら」

「違う。真剣に聞きなさい。アリス、君の今後の為だ」


冗談を少し交えただけなのに、レイに諭されて口を噤むことになった。

レイを不愉快にさせてしまったことを悔やみ、唇をキュッと噛む。

出会った当初は憎まれ口ばかり叩いていて、きっとレイには生意気な子と思われていただろう。

私が彼に抱く感情の変化に気づいた頃には、少しでも自分を可愛く見せようと努力した。

それが逆効果だったらしく、裏があるのではないかと彼に疑われたりもした。


「そんな名前が付いた意味は省こう。端的に言えば、天才を育成するための施設だった。しかし今は…燃えて無くなってしまったが」

「私も国の試験に合格して国立施設に入ったけれど…私の所よりも凄い所なのね。きっと国のエリートを教育する場所なのかしら?」

「そうだ。君と同じ年齢17歳。子供達は特殊な環境で、処置を行われてきた。当時の写真やデータはすべて焼失し、これは私が後日書き記したものだ」

「あら、貴方はそこの職員の一人だったのかしら。軍に入る前はそっちに居たの?」


本来、シャーナス家の人間がストークスの傘下に当たる軍職に就くことはご法度だ。

ブランシュ、ハーグリーヴスは勿論、もし遠縁であってもマークの家柄の人間は自らの家業に順ずるもの。

でもレイは若くしてシャーナス家当主という肩書きの上、軍にまで籍を置いている。

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