独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
ブツブツ言いながら作業に取り掛かるウィリアム。

出来るだけウィリアムと遠い場所に、サイドテーブルを組み立てる。

日よけのパラソルを立てられ、華奢なティーカップをテーブルに置かれた。

アールグレイ特有のほのかな柑橘系の香りが鼻を掠める。


「たまにはアールグレイも悪くないな。紅茶は心を落ち着かせてくれる。“コレ”も、もう利かないようだからな」

「…ダージリンの方が良かったですか?」

「褒めているんだ。素直に受け取るのも部下の仕事だ」

「はい。シャーナス将軍。では下がります。何か情報が入りましたら、随時ご報告させますので」


肩に掛かるほどに切りそろえた銀髪。

一房だけ伸ばした髪を三つ編みにし、後ろから前に流して赤いリボンで結っている。

女と間違えて軍内で口説いたのは記憶に新しく、今でも根に持たれているらしい。

ユーリウスはウィリアムより後に、私の部署に配属された新人。

その際、調査書をよく読まなかったこともあり、女と間違えて口説いてしまったのだ。


「…まったく。もう少し洒落がきいていてもいい物を。軍服にはスカートもズボンもあるから問題なのだよ。そうすれば私も…男を口説くという愚行はしなかったものの…」

「シャーナス将軍さま!セクハラ発言は犯罪ですわよ?男の子にスカートを履かせたいなんて!何より私(わたくし)の、私のウィリアム!!をいじめないでくださいませ」

「ウィッタード少尉…ウィリアムを手伝いに行ったのではないのか」

「まぁ!私が邪魔だとおっしゃいたいの!?」


サイドテーブルにチェス盤を広げ、クリスタルで出来た白と黒の駒をセットする女性。

黒檀色の艶やかな髪を風に靡かせ、和を想わせる香りを纏う。

黒髪の隙間から覗く、陶器のように滑らかな首筋。

血を落としたように真っ赤に熟れた唇を吊り上げ、にこやかに微笑む。




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