独:Der Alte würfelt nicht.
以前、それとなく聞いたがうまくはぐらかされてしまっていた。
彼の嫌がる話題だと判断して、それ以降その手の質問は控えていた。
そんな彼が軍職に就く前に、怪しげな施設の職員だったなんて知らなかった。
「――過去に四大名家がパンドラを担う若者を育成する施設を建設した。私はその第二世代のときに研究員の一人として迎え入れられた」
「その最新設備で最高の教育を施された子供たちの事を“黒羊”と呼ぶのね?けれどその施設は火事によって消滅してしまい、子供たちは雲隠れしてしまったと」
「察しが良くて助かるよ。多くを語るのは骨が折れるからな」
「私も。多くを語られるより、最低限の情報で憶測する方が好きなの」
黒羊と呼ばれる子供たちは、要人の隠し子か何かではないかと推測を立てる。
表ざたに騒ぐとメディアに情報が掴まれかねないので、逃げ出したまま手が出せないのではないか。
しかし要人の子供ならば、彼らの幾重にも広がる情報網によってすぐに捕まるのではないか?
自分の立てた推測を自ら打破し、開き切ってしまった紅茶の入るポットを爪で叩く。
「特殊な教育というのは何かしら?まさか、脳みそ弄ったりとかしてないでしょうね…」
「第一世代の際には近いことをしたらしいな。 AT-ZL321B4という名称の機会を用いて、脳に直接薬剤を流し込み、化学反応を起こさせる。その化学反応による一種の覚醒状態により、脳の使用率を最大値まで引き上げることが成功…だが副作用が出たらしい。それより数倍効率的な方法を第二次世代に取り入れたようだが」
「…成功っていえないんじゃない。副作用が出て廃人になるのが目に見えているわ」
「確かに第一世代では死者が続出したが3人だけは未だに存命だよ。皮肉にも、研究者たちは全滅すると踏んでいたらしい。成功例もあったから、二世代目へと移行した」