独:Der Alte würfelt nicht.
「んーつれないな。あ、自己紹介がまだだったから警戒してるのかい?僕の名前はカノン。アリスと人に言えない深い関係になってるうら若き美青年さ☆」
「………帰れ。アリスに用があるんでしょ?私はここで待ってないといけないから。邪魔、しないでくれなァい??」
「あはは、嫌われちゃった。こんなにも好意的なのに。ルカちゃんもそんな仏頂面だと…男にモテないよ??将来困るよ??ちょっと位明るくて馬鹿なぐらいが女の子は可愛いって」
「まるで私の事が暗くて可愛くない女の子って言ってるようなものじゃないッ!…でも不思議だわァっ!私アリスから貴方の事、一度も聞いたこと無いもん。どちらかと言うと…紅茶狂の王子様に夢中らしいわよ」
私たちと帰り道が別れた後、いつもきまった場所に用意された高級車で帰っていた。
家の場所も未だに知らないし、休日わざわざアリスと都合を合わせて出かける事の無い私にはどうでもいい事。
シオンと日曜日に出かけていた時、仲睦まじい二人を見かけた事があった。
それは目の前のカノンでなく、もっと大人の男性。
シオンなら冷やかしに行くと思ったのに、気が乗らないとそのまま帰ってしまった。
「王子様って年でもないかな。どちらかと言うとそろそろ中年世代の仲間入りを――」
「男の僻みって醜いよ。それより…貴方は一体誰?私の名前も知っているみたいだし…」
「君の事は、アリスから聞いていたからね。商売魂に燃える若き企業家さん?」
「…チッ…これだからアリスは甘いのよ。顧客の情報が漏れないようにやってるってのに…そこんとこまだ分かってないよなァ…」
個人情報が流出してしまえば、ブランド名で売っているうちの顔に泥を塗るような物だ。
自分達の情報をクライアント側に知られると色々不便なので、極力控えていた。
なのに、こうも簡単に赤の他人に喋るなんてどうかしてる。
心の底で罵声の言葉を吐き出しつつ、にこやかに顔を覗きこんでくる彼に笑みを返した。