独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
つまりは…廃棄処分品から極めて貴重な菌や細胞が偶然発見されたようなもの。

怖くてレイには聞けなかったが、第一世代と言われた子供たちは一体何人実験に投入されたのだろうか。

それでもなお、二世代に渡り実験や検証を続けているということは…それなりの成果も上がっているのだろう。

大切な研究成果が逃げ出したとなれば、マークの人間だとしても血眼で捜すだろう。


「はぁ…パンドラの技術は衰退してきている。だから人間の可能性を最大限に引き上げようと?」

「それも理由の一つだ。国の名前を許されたシステム”パンドラ”だが、元は人間が構築したプログラム。外部からの干渉を一切受け付けない難攻不落の要塞だったのが裏目に出たんだ。パンドラには人工知能が搭載されていて、自己修復を行うことは知っているな?」

「知っているわ。あの時のシステムダウンも、パンドラの代償機能が働いてカバーしてくれたみたいだし。何か問題でも――」

「パンドラの権限を持っていたIDが、ことごとく認証を拒否された。生体認証の登録もしていたが、データ自体を書き換えられていたらしい。今は正常に稼動しているが、膨大なデータ量を処理できなくなったパンドラはいずれ停止する。…世界は大混乱になるだろうな」


 ――パンドラのシステムが停止すれば…この国は確実に終わるわね。


国の名前を許されたシステム”パンドラ”は、全ての電子情報を処理しているといっても過言ではない。

『水上都市パンドラ』を水面下で支える基盤さえも、パンドラのシステムが管理している。

有害な外気から人間を守るために取り付けられたドームは、完璧な四季を演出し気候を安定させている。

もしそれらが停止することがあれば、人は太陽の光に焼かれ汚染された外気に地を這い泥舟のように海に沈むだろう。


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