独:Der Alte würfelt nicht.
「――電波は…うん、良好。とーりーあーえーずーは…はい、これ。調節は自分でしてね」
「…高感度移動型通信端末電波受信機…」
「そこのルージュレッドハートのボタンを押すと、5つに番号の振られたどれかのライトがつくから。ライトが点いてる番号が通信中で、盗聴したい時はそのライトを押してね」
「…………これってさ。軍用のインカムじゃ――」
「あはは、うるさいよー!細かい事はナッシング☆ちょっと“似てる”けど、ほら、これは乙女仕様だから。ほら、ラインもピンクでお洒落だし」
個別のシリアルナンバーをつけられた軍用のインカム。
シオンがとある筋で入手し、未だに生きているので使う事も無いからと私にくれた。
特別に改良し、外装も可愛らしく見た目は普通のヘッドフォンだ。
カノンに渡したのは私が持っている物のコピーで、性能は落ちるけど傍受には長けている。
少し改造を加えてカスタムしたインカムを、感度を最高にまで上げて使用する。
「――っと、色々電波が…ッて!凄いな…ッ全部の報告…雑談まで、入ってくるよ。…これ使えないんじゃないかい?」
「えとね…ライトの1をL2057S473に設定。ライト2をW7690S010.ライト3を――」
「あ、聞こえてきた。これは…個人も特定できるんだ、すごいね。というか…“個人を特定出来た事”の方が凄いというか」
「それはどうも。とりあえずどう、聞こえたァ?」
私の声を無視し、それどころか急に喋りをやめたカノンを見る。
まるでヘッドフォンから聞こえてきた物が、想像していた物より彼を動揺させるものだったようだ。
私の片耳をつけたイヤホンに意識を集中させるが、彼の聞いている会話の内容は他愛のない雑談。
現在の状況とは違いあまりに平和的な、紅茶の討論が耳の奥で繰り広げられている。
目を背けざるをえないほど顔を歪めるカノンは、その会話が終わるまで言葉も交わさずに黙り続けているのだった。