独:Der Alte würfelt nicht.
それほどまでにヘッドフォン越しに聞く紅茶講習が気に入ってしまったのだろうか。
オレンジペコやらマスカットフレーバーやら…夏摘みの貴重さやチップやブレンドの割合。
お昼時のラジオでも受信している気分になり、他の電波に切り替える。
他の回線の内容の方がよっぽどマシの様で、逐一、現状を報告してくれていた。
「――…ッチ」
「…何。今舌打ちしたのォ?別にアリスが浮気してたわけじゃないんだし…」
「大丈夫、随分と前から浮気されてるから。別に今更そんなこと気にしてないさッ」
「開き直るってどうなのォ…ある意味大物ね、貴方」
今までの監視カメラの映像を倍速で再生しながら、違和感の残る部分を洗う。
片耳で軍情報を聞き流しつつ、有力な内容の物はすかさずメモを取った。
個室の中でおびえる生徒、軍の殲滅を待ち望む生徒に、オートロックをどうにか外そうとする生徒。
一部の人間は諦めに似た表情を浮かべて、机に伏せていた。
「ん…これって…!」
「拡張子からすると…動画ファイルだね」
「うん、監視カメラの映像。テロリズムが起こる前のを、ね」
「前の映像…」
ファイル名からして今から約1時間以上前の映像。
映し出されていたのは、火の気もないのに天井から吹き出すスプリンクラー。
その時間帯に、全てのスプリンクラーが作動し、液体をまき散らしていた。
通常なら引火点が高く、揮発性の高い消火薬剤が備蓄されているはずなのに。