独:Der Alte würfelt nicht.


「…スプリンクラーが誤作動ゥ?そんな事って…私もいじってないしィ…。これね、眠くなった理由って…」

「揮発性が高くて、麻酔効果のあるものだね。クロロホルムとかクロルエチルとか…麻酔性が強い薬品の類じゃないかな。消火剤に混ぜ込まれてるみたいだ」

「随分と詳しィ事。薬学でも齧ってるの?」

「…基本知識だよ。別に…自慢できる事でもないさ」


カノンの表情が陰り、会話を聞いていた時の様な不機嫌な雰囲気を纏う。

地雷でも踏んでしまったのかと身構えるが、二言目にはそんな素振りすら見せない。

含んだ笑みは、彼自身の本性ですら包み隠してしまう物。

薬学に相当精通しているのではないかと仮定しながら、今度鎌をかけてやろうと心に決めた。


「でもおかしいよねェ。元天才科学者がこの学園に居るってわかっているのに、誰かは特定できてないなんてさァ」

「…うん」

「うわ、気付いてたクチなんだ。性格悪ッ。しかも…アリスに軽くのされてお寝んねなんだァ」

「僕は止めたんだよ。つい、逃げられちゃったんだけど。折角、ちょっとでも軌道修正してあげようと思って優しくしてあげてるのに」


学園は完全個室の授業体制で、授業中は必要時以外教室を出ることが出来ないのだ。

それにテロリスト側から遠隔操作でき、オートロックを作動させるのなら、一々生徒を眠らせる必要などない。

本来、実行すべき場所は中央制御室だけで、そこにいる人間だけを無力化すればいい事。

ある程度のスキルがある技術者がいれば、学園のシステムは内側からは簡単に動かすことが出来る。

それをわざわざ、扱いの難しい劇薬を配合し使うなど非合理的で馬鹿げている。
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