独:Der Alte würfelt nicht.
「つまり黒羊と呼ばれる子供たちに、パンドラのシステムを外部から開かせようと?難攻不落のパンドラのセキュリティを掻い潜って…すごい大役ね。憧れないわ」
「本来ならばそういう用途に使うはずの子供たちではなかった。だが、時は急を要す。パンドラのシステムに直結していた彼らなら可能だろう」
「パンドラのシステムに直結って…それが第二世代の研究成果なの?」
「“黒羊”達は、脳に小型記憶媒体を埋め込まれてあるんだ。脳が記憶した情報は全てパンドラで処理され格納される。脳自体は活動しているから生活に支障は無い。だが、定期的なメンテナンスとデータ処理が必要だった」
つまりは、黒羊と呼ばれる子供たちの知覚した全てのものが、パンドラに格納される。
逆もまた然りで、パンドラから子供たちへ情報を送信することにより、今まで経験したことも無い情報が追加されるということ。
噛み砕いて言えば、音符をまったく読めない子が、”音階”という情報を送られることにより読めるようになる。
“学ぶ”という時間を短縮することによって、新人類でも作り出す気なのか。
「まるで脳細胞を全てプログラムで書き換えたような言い方ね。きっと海馬や大脳に記憶されたものは、データ化されて、ハードディスクに突っ込んであるんだわ。映像としての処理は重いから、圧縮をかけてメディアに隔離しておかないと」
「その点は気にすることはない。推定では500歳まで生きても容量の10分の1ほどだ」
「じょ、…冗談で言ったのに…。凄いのね、今の技術。脳には今まで生きた全ての記憶が詰まっていると言うし、それを細分化して処理するなんて。膨大な数字に目が眩むわね…」
「君も規格外の人間の部類だろう。彼らは、君より少しばかり優秀なだけだ」
記憶の全てをデータ化して管理が出来ると言うならば、人間の可能性が飛躍的に進歩する。
通常、人間は学習をして知能を向上させるが、それが不要になるだろう。
脳に直接知識を植え付け、何の障害も無くそれを使う事は――。
人類はさらなる進化を遂げ、停滞を見せたパンドラの技術を飛躍させる事が本当に可能かもしれない。