独:Der Alte würfelt nicht.
――非常用階段は監視カメラが設置されているというのに、音を立てて駆け下りていったシオン。
無用心ではないかといえば、そんなこと気にしないとあしらわれた。
手すりを滑り台に見立てて降り始めた彼女には、肝を冷やしたけど、地下まで降りることが出来たのは確かだった。
テロリストも現れなかった為、見つからなかったのだろう。
でも…“これ”はないだろう。
「――ちょっと、シオン…こんな所なんで知ってるのよ…ッ」
「シーッ静かに!いいから進むの!ぎゃっ!ちょっと、押さないでってばッ」
「そんなこと、いわ、れても!ここ暗いし狭いし埃っぽいんだもんッそれに…あんた、そのアンティークな着物汚れてもいいの?クリーニング代、テロリストに請求しても払ってもらえないわよ?」
「天井裏なんだから仕方ないでしょ!それにほとんど使われてないし…。やーん、合わせがずれちゃった」
非常階段ではあれほど大っぴらに動いたくせに、地下についた途端に辺りを見回した。
壁につけられた梯子を上り、天井の正方形の扉を外したのだ。
余談だが、シオンが私の頭上にそれを落としたお陰で、脳細胞が数万個死滅したのは言うまでもない。
そして現在、埃臭い天井裏の細い通路に、女子生徒二人で四つん這いになりながら進んでいるという乙女としてどうなんだと思う状況。
「…あんた、また変なことやってたんでしょ?」
「人聞きの悪い事言わないの。まぁ昔ちょーっとシステムをいじったことがあってね。ルカと忍び込んだの。本当はルカにハッキングしてもらって色々書き換えようと思ったけど…。まぁ、“アノ事件”のすぐ後だったし、警戒してたからね」
「悪かったわね…」
「別にルカなら大丈夫だったんだけど、もしもの事があった時は困るからね」
世間的にアノ事件は“私がパンドラのシステムへのクラッキングを仕掛けた”ことになっている。
ならばこの発言も無理はないだろう。
頭の中で必死に自分を押さえつけ、シオンの言葉には悪意はないと自分を納得させる。
そんなことをしている自分が滑稽で、結局自己嫌悪に浸ってしまうのだ。