独:Der Alte würfelt nicht.
踏まれ続けていた指を乱暴に引き抜き、熱を持った指先をさすった。
じんわりと痛みが残る指先を開いたり閉じたりして痛みを緩和させる。
文句の一つでも言ってやりたかったが、あまり時間がない事を思ってシオンを急かす。
メインルームの真上に着いたらしく、シオンが特殊な機械を使って室内の様子を窺っていた。
「人…居るみたいだけど、なんかおかしいよ…。動きもしないし…もしかして、中の人達を…ッ」
「音も…しないみたい。なら…何処から遠隔操作を――ッ」
「シッ…そんな声出したら――ッ!!」
「え、あ…きゃアアッ!」
狭い空間の中を埋め尽くすような、耳を塞ぎたくなるほどの警報音。
粗雑な音質に耳を両手で塞いでいると、成り止むのを待つ前にシオンが私の腕を掴んだ。
スリルを美酒として啜るシオンが、撮り乱した様子で私の体を引き寄せる。
体勢が急に崩され、シオンの膝に肩口から転んでしまった。
――パンッ!
先ほどまで私の居た場所に、銃弾で撃ち抜かれたような小さい穴が開いていた。
もしあの場所に居たのなら…体のどこかに風穴が開いていたはずだ。
奇跡的な回避を成功させたシオンに感謝するが、今度は体勢だけでなく視界までもが変化する。
体が宙に浮いた様な不安定な感覚に襲われ、シオンと共に飲み込まれた。