独:Der Alte würfelt nicht.
「人体実験などという安易なものではない。人類の未知の可能性が備わっている。…だがその施設は、今はもう焼け果てて無い。研究資料も燃え果てた、研究体さえも…逃げ出すという始末」
「火事…なんて。一定の熱を感知すれば、近くの自治体に連絡がいくはず。全焼は…まずあり得ないし、何より国家機密のプロジェクトなら、異変を探知した瞬間にデータの転送が始まる筈よ」
「逆だアリス。感知されたく無かった故に、全焼という結果になった。しかし、データは全て“パンドラ”のシステムに貯蔵された。施設の復旧を図り移転を試みたが…パンドラが外部干渉を一切受け付けなくなったのだよ」
「なるほど。開発者でも現状解決が不可能になったから最高の頭脳を誇る黒羊に助けを求めたというわけで。皮肉だわ、世界最高峰のセキュリティーが仇になったのね」
ハーグリーヴス家が第一の権威を所持している理由は、膨大な情報を管理するためのパンドラ”と呼ばれるシステムがあるからだろう。
この国の名前を授けられ、国の核となり数百年世界を統治してきたシステムは今もなお健在だ。
個人の所有する電子機器や、企業のものなど全てを監視し、管理をする。
その一部を停止させてしまったのだから…私のやった事はある意味重罪のかせられる所業だ。
どのような方法でパンドラのシステムに干渉したのかは不明だが、何かしらの抜け道があるのは確かである。
「それは分からない。だから君を呼んだ。君の研究者の一人が、一部のシステムをダウンさせた際、何かしらの理由でロックがかかったのかもしれない。データの保護の為に。君にはそのパンドラを開けてほしいのだよ」
「そ…ッんなの。無理よ!国のメインシステムに入り込むなんて、無理、絶対に出来ない。それに黒羊に動いてもらうのではないの?私はその道の人間でもないし…もし出来たとしても、今度は一体何が起きるか…」
「黒羊の一人は現状維持が適切だと結論を出している。他の二名は非協力的。君もパンドラボックスを構築した開発者の一人だ。何か起きるならまだいい。起きない方が問題なのだ。時が来れば君に働いてもらう。今はマークの人間たちの動向を連絡してくれ」
「…状況は最低限、理解したわ。貴方はそのために、私を訪ねてきたのよね」