独:Der Alte würfelt nicht.
「…一体、何が目的なのかしら」
「わ、…わかりま…ッ」
「嗚呼、ごめんなさい、貴方に言ったわけではないの…。そうね…過度のストレスはお腹の子に悪いから…これ、睡眠剤が入ってるの。――よかったら…」
「嫌ぁあっやめてッ!それで私を眠らせてお腹の子を抉り出す気なんでしょう!?お願いします、助けて…ッこの子を…殺さないでぇええッ!!」
暴れる妊婦を抑え込む事も出来ず、床に散らばった工具を手に取る事すら出来ない。
決断を迫られていると言うのに、刻々と時間だけが過ぎ、回答の出されている質疑応答を繰り返す。
気が触れてしまったのではないのかと思うほどの指先の震えは、握り込んでも止まらなかった。
手当たり次第に周りの工具を視界から遠ざけ、状況を好転しようと思考を働かせる。
――犯人側が正解を知っているのなら、前もって検査をしているはずだ。
彼女の手首に埋められているIDを自分の端末で調べるが、特に何もそれらしきものは無かった。
病歴の一覧に“ターナー症候群”と書かれ、今までの治療履歴が一覧される。
治療の経過、投薬の情報、そして…最後の治療先の病院は…。
――ッ…ここって確か…ストークス家直属の医療施設じゃない…!
ストークス家は軍を統括し、未だに政府に反抗する組織の制圧やテロリズムの抑制。
姫ィさんという人間がストークスと繋がっているのかは分からないが…今まで見えなかった影が現れてくる。
こんな時こそレイと連絡を取りたいのに…肝心な連絡手段はカノン君に壊されてしまった。
盗聴されると言う理由で端末経由で連絡は取り合っていなかったため、特注の携帯だけが手段だったのが裏目に出た。