独:Der Alte würfelt nicht.
――運が向いてきてるうちに…気付いてよルカ…貴方の大事なシオンちゃんが…危ない目に会ってるかもしれないのに…。
カノン君とルカがどうやって接触したかは分からないけれど…口のうまい彼が、どうにか丸めこんだのだろう。
私に協力的でないルカと行動を共にしている所を見れば、カノン君がシオンを餌に、サポートに回らせる気だ。
これが今回の最高の幸運、シオンには悪いけど…ルカを動かすにはカノン君とシオンの力が不可欠。
あそこまであからさまに助けを求めれば…ルカが動かざるを得ないだろう。
――ごめんね、ルカ…私にはまだ、人を天秤に掛ける事…できない。
この狭い室内で出来ることは少なく、ルカへと情報を送り…内容を解析してもらうしかない。
それ以外…腹を裂き、胎児を引きずり出すなどと言う奇行に走らずに済む方法はない。
随分と人任せだと自分で思うが、これ以外、彼女と、お腹の子と…投票者達を救済する方法は無いのだ。
「――IDはF2437DW57N1で…マリーナ・キャロル。“今までの”かかりつけの病院は?どちらだったのかしら」
「え…えぇと…地方の…第32エリアB区画郊外にある…ノックス夫妻が…やってる病院で…ッ私の病気が特別だから…ッ都市の方を紹介されて…ッ」
「その子は…今何カ月になるんですか?あと…お腹…撫でてもいいですか?」
「…えぇと、10週目になるわ…。お腹…強く、押さないでね…」
妊娠する可能性が相当低いと言われるターナー症候群を治療できるのは、パンドラエースにある医療施設のみだろう。
しかも治療が成功し…胎児が順調に育っているとなれば…、その期間の映像や画像が残っているはず。
しかし問題が一つ、医療機関の特定を…どうやってルカが行うかだ。
私はもうストークス家の直属の施設だとわかっているが…ルカにはその情報がない。
ここで伝えたいのは山々だが、下手に動くとルールに反して罰則を受ける可能性がある。
【投票者】側にも何かしらのペナルティが与えられることも考慮し、下手に動けない。