独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
レイ・シャーナスと出会ったのは、ほんの数週間前。

自分が持ちうる限りの能力を使い、私が起こした事件の隠蔽へと力を尽くし切っていた頃。

“私”という存在をこの世から消し去る勢いで、全ての経歴を削除した。

部屋から一歩も出ず、じっと私を捕まえる誰かに怯えて、膝を抱え震えていた。


「後日、黒羊の一人に会ってもらう。私は不本意だが、勝手に面識を持たれる方が面倒だからな。こちらから日時を指定したから会いなさい。適当にあしらって、ディナーにしよう」

「…黒羊ね。そもそも彼らは何のために造られたの?国のプロジェクトだという事はわかったけれど…本来の目的は一体…」

「後釜だよ。四大名家…ハーグリーヴス家、ストークス家、ブランシュ家。そして私のシャーナス家の後継者として…黒羊ではなく君を据えようと考えている」

「は…ッ」


待て、待てそんなッ!そんなこと…ッ!!

願わずとも…レイのお嫁さん候補の一人にッ…しかも、私の知らない間にレイが将来設計を…!

嗚呼、どうしよう、エプロンを買って早く花嫁修業をしないとッ!

レイはフェミニンとトラディショナルのどちらが好みか知らない!

どうしよう、嗚呼落ち付いてアリス、ハートが乱舞しそうなほど顔がニヤ付いてしまうわっ!


「もうじきブランシュ家の養子縁組が解除されるからな。その後見人として私が引き取ろうと思う。…って、聞いているのか?」


え…そんなの、つまりつまり…養女にでも取ろうという魂胆!?

そんなの嫌、絶対に耐えられない。

レイが家に知らない女を連れ込んできて、しかも結婚までしたら…。

私はその人を母と呼ばなければいけないし、レイの事も…そんな、嫌よ、絶対に嫌ッ!!
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