独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
「い、やよ。嫌ッきっと私はレイの後釜になんてなれないし、私は…レイの事をパパ何て呼びたくないわ!断固拒否よッ嫌、絶ェッ対に嫌ッ!!」

「…そ、こまで…嫌がらなくても…。今、本当に…胸が痛んだぞ…。嗚呼、心臓がチクリ、チクリと…縫いつけられるような気分だ…」

「違ッ…そうじゃなくて…!レイの事は嫌いではないのよ?ただ…パパって呼びたくないだけで…その、だから…ッ!」

「まぁ…いい。その話はまだ仮定の一つでしかない。だがその未来に断定するかもしれないという意味で、話す事にした」


口元だけに笑みを浮かべるレイだったが、どこか残念そうに微笑む。

レイには悪いが、そんなこと実現しては私の人生設計丸つぶれだ。

私は彼に出会った瞬間、運命という言葉を心の底から祝福をした。

あの黴臭い部屋に太陽の光を運んでくれて、開く事の忘れた窓を開けたのはレイだった。

風の匂いが部屋いっぱいに充満して、自分の息遣いも、電子機器の音も全部かき消される。

あまりにキラキラ輝いていた所為で、天使様が私を迎えに来たのかと本気で信じたのに。

「レイの娘になる未来なんて来ないわ。…あくまで私の意見が尊重される場の話だけれど」

「…娘、は駄目か。ならば…私に向かってバージンロードを歩いてみるか?」

「バ、ババ…バージンロード…!そんな、冗談ばっかり…」

「冗談ではないのだがな。最終的には君の判断に任せる。もし貰い手が無かったら、私が君の嫁ぎ先にでもなってやろう。だから最後には、必ず私の傍に戻ってきなさい。おいでアリス」


たくましい両腕を広げ、口端を軽くあげたレイ。

顔から火が出そうなほど頬が熱く、終いには涙さえもうっすら浮かんでしまった。

あまりの急な幸せの速達便は、確実に私の心に届く。

私はレイに言われたとおりに前に進むと、その腕いっぱいに抱きしめられた。

< 23 / 365 >

この作品をシェア

pagetop