独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
「はろー♪久しぶりだね、白兎ッ。アリスも熱烈な歓迎嬉しいよ。君って結構甘えんぼだったんだね。嗚呼、この胸のあたりがふかふかで幸せな事に…」

「お前は…ッハートのジャック!!テメェ…俺の事殺そうと思って…ッ!」

「ん、やけに抵抗しないと思ったら…どうしたのアリス。可哀そうに…こんなに目、腫らしてさ。僕が死んじゃう夢でも見たの?大丈夫、僕は此処に居るから…ほら、ね?落ち着くんだ。泣かないの」

「…いうの…ッエルが…ノエルが…っひ、酷い事ばっかり…!レイが私の父親だって…そんなの嘘、嘘だもん。カノン君も…そんな、酷いこと言うの…?ねぇ…カノンく――」


一番初めにレイへの疑念を植え付けた男に縋って、滅茶苦茶に背中を引き寄せる。

痛いぐらい抱きついているのに、カノン君は落ち着くまで私の背中を擦った。

砕け散り私の内側からズタズタに引き裂く破片を、温かい腕が包み込んでその傷を癒してくれる。

ノエルでさえ眉を顰めた血まみれの私の姿を見ても…カノン君は一切動じず抱きしめてくれた。


「嘘だよ、アリス。ぜぇんぶ…嘘だ。僕だけが君に嘘をつけるよ?だからね…君は悲しまなくていいんだ。君とレイ・シャーナスは…全くの他人だ。そして結婚式の当日、僕が君を攫って逃げてあげる。君の罵声を受けながら――でもさ、いつか君は、きっと僕の事許してくれるよ。そして、大好きになってくれる」

「…いいわ、それでもいい。それが…事実でいい。まだそれなら…救われるもの」

「だからウソツキは…死んじゃえばいいんだよ」

「ッたく、さっきまでレイ、レイって泣いてた奴が…ッ今度は違う男か。よく見てみろよ、その男が俺に向けてる物を…ッ!!」


ハッとしてカノン君の腕から身を捩るが、身動きが取れないほど強く抱き寄せられる。

カノン君の胸板を叩いても、その笑顔が崩れない事が余計に恐ろしかった。

横目でメインルームの黒い壁を見れば、カノン君が銀色に輝く銃をノエルに向けている。

私が見上げているのと同じ甘い笑顔で、トリガーに掛けられた指に力を入れる。

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