独:Der Alte würfelt nicht.
「待って、駄目ッ!カノン君、カノン君離してよ!!」
「見ない方がいいよ。傷になる。すぐに終わるから。相手はテロリストだし…正当防衛だ。まずは…その目障りな赤目から撃ってあげるよ。嗚呼…駄目だ、脳を貫いたら…すぐに終わる。それじゃあつまらないな…」
「アリス聞け。俺と同じ時期に眠りネズミが施設から逃げて来てる。そいつは俺と逃げているときに、帽子屋に捕まって連れて行かれた。その後の消息は分からない。俺は眠りネズミを探すためにある女に助けを求めたんだ。でも…もう、俺は探せそうにない。お前が…助けてやってくれ」
「お願い、カノン君やめてよ!離して、何でもするから!!お願いッ私の、私の友達を――ッ殺さないでぇええっ!!」
「うん、いいよ」
腕が軋むほどの束縛を一瞬で解放され、私の体が宙に投げ出された。
すかさず上体を捻り、ノエルを庇うように両手を広げてカノン君の前に立ちはだかる。
彼はつまらなそうに私を見て、銃口を下げる事も無くトリガーに指をかけた。
指に力が入るのを見届けて、私は舌を噛まない様に歯を強く食いしばる。
――パンッ。
軽い音と同時に、右脇腹を熱い塊が暴れながら抉っていく。
ノエルに背中を支えられ、床に倒れ込んだ頃から痛みは更に酷くなった。
キャロルさんの血ではない、自分の血液に濡れながらカノン君を下から見上げる。
複雑そうな表情をして膝をつき、私の上半身を抱き上げてくれた。
「ごめん…撃つの止めようかと思ったけど…撃っちゃった。嗚呼…可哀そうに、痛いよね。血がこんなに…溢れて…。傷が残っちゃうかな…」
「…ねぇ…ッカノン、君…ひとつ…聞いてもいい?」
「なぁに、アリス」
「私の瞳…何色だったか…覚えてる?」
私は彼に覗きこまれる前に瞼を閉じて、彼の答えをじっと待った。
血が抜けるたびに、体中から力も抜けて…酷い吐き気が私を襲う。
カノン君はいつになく考え込んでいるらしく、私に答えを教えてくれない。
意地悪をしているのかもしれないと想像したが…彼は、私が意識を切る前に答えてくれた。