独:Der Alte würfelt nicht.
「…だ、…め…私と、お話…するの」
「アリス…すぐに医療班の所に連れて行ってやる。傷跡も綺麗に消してやるからな」
「いいの…そ、んなの…いいのよ…」
「よくない。もう喋るなと言っている。道を開けろ、邪魔したら容赦しないからな!!悪い、少し揺れるが我慢してくれ」
肩が風を切る所為で、大好きな香水の香りが消えてしまった。
不安で泣きそうになって、レイの軍服を何度か小さく揺すってみる。
息切れした顔に、私が付けた頬の赤い血。
レイの耳を丸くした手で覆い、彼だけに聞こえる様にちいさく呟いた。
「だ…ぁい好き…レイ。…わたし…を…お嫁さんに…して…下さい」
甘い香水の香りを肺に一杯に吸い込んで、レイの返答を聞く前に夢に堕ちることだけを願う。
――夢の中ぐらい…幸せになっても…罰は当たらないよね。
ステンドガラスから差しこめる光の中を、ゆっくり彼に向って歩く私の姿。
ウェディングドレスを着た私を待つのは、タキシードに身を包んだ貴方の姿。
覚める事に恐怖する様な、優しすぎる世界に包まれて眠る最後の夢。
もしもそれが“夢”でしかなかったとしても、私には――それだけが世界だった。