独:Der Alte würfelt nicht.
「…甘い香りがするわ。私の好きな香りに変えてくれたのね」
「君は私の飼い猫。ふらふら出て行っても、必ず帰ってくるんだぞ」
「貴方が望むなら…私は従うだけよ。貴方は私に光をくれた。あの部屋から連れ出してくれた。貴方が私を必要とするまでは、私は貴方の傍から離れないわ」
「光、か。それは…これからも君を照らし続けるのだろうか」
「えぇ。きっと。…もう何も変わらなければいいのに。貴方にとっての価値が…私から消えませんように」
「それでいい。これから見届ける全てのものに目を奪われず、このままの関係で居られたら…私は…本当に君を――」
続けられた言葉の先に、私は人知れずそっと涙する。
温かい腕に包まれて、どうかこの関係が不変で有る事を心から願う。
しかし私は知っていた。
世界には、絶対、不変、永遠、などと言うものは存在しない事。
この願いが、いつしか祈りに変わってしまう事に私は薄々感いてしまう。
それを否定するように、レイの背中に爪を立てれば、その分強く抱き寄せられた。