独:Der Alte würfelt nicht.
――テロリストを全員捕獲、死亡者2名、負傷者1名という誇らしい結果に終わったのに、未だにうちの准将様の機嫌は直らない。
あの時、軍の指揮を放り出して、危険な校舎へ単身で乗り込んでいく姿を、誰も止めずに唖然と眺めていたのをよく覚えている。
止めようとした俺の頬を殴り飛ばし、「邪魔だ」と吐き捨てられた。
バイオテロの可能性もあり、危険だと止める人間は容赦なく銃で撃たれ、誰も近づくことができないほどの殺気を身にまとっていた。
「なんですのウィリアム。その顔…まだ拗ねてらっしゃいますの?」
「当たり前だろ!?殴ることないだろ、殴ること…。それに、再生医療が一般化したご時世で、脱脂綿と消毒液なんてどんだけレトロなんだよ」
「経費削減ですわ。こんな可愛い子に治療をされているのに…あなたは文句ばかりですのね。これ以上の医療が受けたい場合は、自費でお願いしますわ」
「別に救急箱の中身にケチをつけてるわけじゃないんだよ。ただ…あいつの事だ、レイ・シャーナス将軍。何考えてるかちっともわからない」
大きくため息をつけば、リゼルが消毒液に浸した脱脂綿を、殴られて皮が剥けた頬に押し当てる。
チリリとした痛みと共に、不満そうに押しつけられた脱脂綿を睨んだ。
嫌味をこめてグリグリと押し当てられ、やめてくれと言うように彼女に謝罪する。
リゼルは満足したように笑い、脱脂綿を捨ててピンセットをテーブルの上に置く。
ここは仮設治療所で、テロで負傷した場合、医療施設が遠くにあった場合や、急を要する患者が運ばれてくる。
もちろん軍医も同席し、治療に当たるのだが――今回の負傷者全員、シャーナス将軍に発砲された人間を含めて治療を受けていた。