独:Der Alte würfelt nicht.
「…私、自分が美しいって事、自覚していますの。欲しい物はすべて手に入れてきましたわ。でも…これって寂しい事ですわね」
「ウィッタード家の威信を守るために、マークの家とのパイプにならないと…って言ってたな。…それで、お家騒動からドロンした俺に目をつけたと」
「一時期はエリザの事もあって諦めてましたもの。でも…チャンスと言っては失礼ですが、今度こそ。妹のシオンちゃんに認めてもらいますわ!」
「まぁ俺も…シオンがお前のこと認めたら、結婚してもいいとは思ってる。ウィッタード家からの縁談は、ストークス上部からも押されている。いずれは…なるようになるからな」
リゼル・ウィッタードとの婚約は、彼女がシャーナス将軍の部下として配属されるより以前に決まっていたらしい。
彼女は誰もが息をのむほどの絶世の美女で、その溜息一つで腰が砕けるだろう。
誰もが羨むほど理想的な美女が俺の前に現れた時には――色々と遅かった。
エリザベスとの婚約が決まり、親族のあいさつと結納を済ませた後だったからだ。
「…シオンちゃん、いい子ですわね。私が会いに来ると聞いて、まさかミートパイを焼いてご馳走してくれるとは思ってませんでしたわ。お土産にゼリーのデザートも持たせてくれて」
「そういえば、張り切って料理してたな。いつも絶対しないのに。素気ない態度はとっていても、リゼルの事気に入ってるんだよ。お前が飼ってた黒猫に子供が出来て、俺が一匹仔猫を貰ったじゃないか。その後、シオンが強請って来てな、黒猫にリゼルって名前付けて今でも可愛がってるんだよ」
「そうでしたの。うちのマリアンの仔猫は生憎全部貰い手が決まっていて…早く言っていただけたらシオンちゃんに一番かわいい子をあげましたのに」
「俺もリゼルに頼もうかと思ったんだが、俺が貰った子猫がいいって拗ねてさ。悪かったな、言うのが遅くなって」
シオンとは本当の兄妹ではない。
彼女と出会ったのは、ストークスが支援することが決まった民間施設を視察に来た時。
12歳と3カ月の君は、教室の隅で机に頬杖をつきながら雲ばかりを眺めていた。
その青い瞳に、空に流れる雲が映って――小さな空が出来ていた事を今でも思い出す。