独:Der Alte würfelt nicht.
「シオンは優秀なんだよ。パンドラの国立学校で入学時からずっと首席だ。軍のエリートコースにだって引き抜きの話が出ている。本人が望めば移すんだが、欲が無いんだ。自分は今のままの生活で十分だっていうんだよ」
「毎日通って、結局ストークスの養女に。ある意味可哀そうではありませんこと?マークの家に生まれた女の運命は悲惨ですもの」
「シオンは…好きなように生きさせてやりたいんだ。ストークスの最高の教育を受けさせてやりたかっただけで、ストークスの人間として生きてもらいたいわけじゃない」
「あら優しいんですのね。ならずっと三人で、楽しく暮らしましょうね」
リゼルが首を傾けて俺に笑いかけた時、その長い黒髪がパラパラと零れ落ちた。
その美しい髪に触れたくなって、そっと手を伸ばすと…リゼルに制される。
携帯が鳴っている事を指摘され、慌ててメールボックスを開く。
目眩すら起きそうな内容に、息をすることさえ忘れた。
“あの娘は事件の重要参考人として取り調べする事になった。明日、警察に引き渡す。お前が家に泊めたことは口に出すな。私情が絡んでいると思われて軍の威信に関わる。最後に、あの娘のことは忘れろ”
別れて半日も経っていないのに、こんなにも早く身柄を押さえられるんだ!
しかもローズは事件後の精神状態がよくなく、パニックを起こす事もあった。
その為、精神病院に入れて様子を見ようという事になったのに――!
「…クソ…どうしてローズが…ッ」
「どうしましたの?何かありましたの…!?」
「俺が保護していた子が…明日警察に引き渡されるって…急がないとッ!」
「それは…いい事ではありませんか。もしかしたら彼女が容疑者だった場合…貴方が危険ですものね」
「なんて…事言うんだよ。ローズはそんな事する子じゃない!!」
明日には警察に引き渡されるとなると、ローズの身の安全を確認する手段がなくなる。
精神異常が認められて、容疑者に仕立て上げられる可能性だって捨てきれない。