独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
――熱くなるな、か。


朝にセットした髪をくしゃりと崩し、そのままかきあげる。

全自動操作から、手動に設定を切り替えてハンドルを握った。

シャーナス将軍から軍用車を私用で使った事と、交通法違反をしたことで始末書を書かされるだろう。

そんな事を思いながらも、渋滞に巻き込まれている車を、無理やり中央の白線の上に乗り出させる。

車に付けられた小型端末から警告音が鳴り、停止の表示が現れるが一切無視を決め込んだ。

制限速度のスピードを倍出して、俺はローズのいる病院へと到着する。


「――こんなに頻繁に来るような所でもないんだがな」


まるでその病棟だけ隔離されているように、医療施設の本館から離れた位置にある精神病棟。

見た目には清潔そうに見えるが、実際に取り巻く雰囲気は異質を感じさせるものがある。

医療施設の本館及び精神病棟は軍の直轄の機関でもあり、民間に利用される場だった。

軍人ならIDを提示するだけでどの館内を縦横無尽に歩き回れる。

実際やっては関係者に注意されるだろうが、一応その権限はあるので、常識は無視させてもらう。


「――入れてください」

「申し訳ございません」

「短時間でいいので、お願いします」

「申し訳ありませんが、彼女の面会は禁止されておりますので」

淡々とした口調で丁寧に頭を下げる看護士さんに、困惑した表情を浮かべる俺。

何としても入れないという威圧感に押されつつも、始末書覚悟でここに来たことを思い出す。
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