独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
 …異質そうに見えたけど、違うんだな。


精神病棟にはいいイメージを持っていなかったため、気付かないところで見下していたことを心の中で謝る。

一般的に見れば精神病院は異常な人間や、精神に疾患のある人間が集まる場所だと思うだろう。

しかし、俺の見た限りでは、普通の人も多い。


「…ここ、どこだよ…」


歩いているうちに、患者の数人から睨まれた。

絡まれようとするが、それを振り切るように早足で進む。

上の階に向かう階段を発見したが、立ち入り禁止になっていて鍵がないと入れない。

それもそうだろう。

この上が女性の階だとすれば、こんなに安易に男が上に上がれる仕組みになっていないはず。


 ――他の道を探すしかないか。


「にいちゃん軍の人かい?」

「あ、ああ、そうだが…」


にやにやした顔をする中年男性が全身をぼりぼりと掻き毟りながらやってきた。

できるだけ不快を表わさないように似非笑いをすると、向こうが急に怒り出す。


「ここのなぁ、チキンカレーがまずいんだよ!どうにかしてくれねぇかよ、おい!聞いてんのか!?」

「チ、チキン…?」

「聞いてんのかよ!!」

「し、失礼します!」


よくわからないが、たちの悪い酔っ払いみたいに見える。

俺は駆け足で院内を進み、エレベーターを見つけるが、IDを照合しないと動かないらしい。

諦めようとしたその時、エレベーターがこの階に到着した事を知らせる音が鳴る。

看護師が追ってきたのかと思ったが、それに乗っていたのは…意外な人物だった。
< 252 / 365 >

この作品をシェア

pagetop