独:Der Alte würfelt nicht.
「…軍にはもう、戻らないのか?」
「…えぇ」
「シャーナス将軍が唯一の常識人で有能な部下が居なくなったって、落ち込んでたよ。――俺も、…いや、やめる。これ以上は惨めになるだけだからな」
「後から聞いたわ…ずっと、待っていてくれていたみたいね」
婚約を解消された時の燻りは、今でも醒めることなく彼女へと向かい醜く牙をむく。
神父の前で滑稽にもタキシードを纏い、来るはずの無い純白の花嫁を待ち続ける。
嫌々賛同したシャーナス将軍は、花嫁が現れない事に手を叩いて笑い続けていた。
本来なら花嫁と歩く筈のバージンロードを踏みつけて帰っていく後ろ姿。
開始から1時間した頃には、はらはらと席を離れる親類達。
惨めな姿を曝してまであの場の立ち続けたのは…心のどこかで君が来ることを期待していたから。
「…悪かったとは、思っているの。でも…事情が変わったのよ。私の意志だけでは…変えられない事だったの。…本当にごめんなさい、ウィリアム」
「あーもういい。ごめんなさいは聞き飽きた。俺は他の言葉を聞きたいね」
「他の、言葉…?」
困惑した彼女に、歪んでしまいそうな口元を無理やり左右にのばして笑みを浮かべた。
ニッと、歯を見せて、できるだけ明るく笑ってみせる。
変な顔と、数か月ぶりに見たエリザの笑みに…心が何か踏ん切りをつけた。
俺は久しぶりの彼女の笑顔に安堵しながら、内心煮え切れない気持ちを無理やり抑え込む。