独:Der Alte würfelt nicht.
――オゾン層破壊に伴い、ドーム型の防護壁に覆われたパンドラエース第一エリア。
国をすっぽりと覆う大きなドームの中心に聳え立つ老木を囲み栄える都市。
それだけでは地表が熱を持ってしまうため、一定以上の温度を感知すると人口雨が降るように設計されている。
巨大なビニールハウスを彷彿とさせる水上都市で、お洒落な日傘片手にバスケットを抱えて野原でランチをしたいと考えるなんて…贅沢だと思う。
いそいそレジャーシートを敷きながら、大きめのパラソルを組み立てる青年を盗み見る。
私は野外であるのにふかふかのクッションを背もたれにして、小さくため息をつく。
「――レイに…ホテルに会いに行ってほしい人間がいるといわれて、わざわざ来たのだけれど。まさか外で楽しくランチボックスを広げるなんて思っていなかったわ」
「こんなに天気のいい日はホテルなんかに引きこもって無い方がいいんだよ。話すなら外の方がいいだろ?風も気持ちいいしね。君だって男の部屋に二人っきりより、こうやって誰かの目がある場所の方がリラックス出来るだろうと思ってさ」
「もう。人の話を聞いて。貴方は黒羊の一人なんでしょう?たしか…この資料によると黒羊No.2で…――あ、ちょっと!返してよ!!」
「はいはい。探偵ごっこはお仕舞にしようねー。この資料とコレ交換。――はい、お姫様♪」
エメラルドの瞳をもち、ブラウンの髪を揺らしながら微笑む青年。
耳元にかかる髪を、ギンガムチェック、ドット、ゼブラ模様の色とりどりのヘアピンでとめていた。
白詰草と三つ葉を器用に編みこんだ輪を頭に乗せられて、手に握っていた資料をひったくられる。
返してと抗議するが、シートの下に入れ込んでしまい彼がその上に座ってしまう。
彼の体重で資料が潰れる音がするのを、シートのビニール質な音と同時に聞く事になる。
脱力しながらも、頭に乗せられた輪を取ろうと手を伸ばしたら、すかさず握られる。