独:Der Alte würfelt nicht.


「ごきげんよう帽子屋さん。久方ぶりなのです」

「ウィリアム…一つ教えてやろう。パンドラのシステムダウンの原因は…このアンネローゼだ。保護溶液の中で眠っていた時、危険回避のためこいつを格納していたサーバーを自ら落としたんだ。だがそこで処理していた他のシステムもダウンしたんだよ。こいつだけは切断しても単独で動けるからな」

「何の話だよ…それ…システムにサーバー…?まるでローズがロボットみたいじゃないかッ…」

「コイツの記憶情報をパンドラ内にあるサーバーに送る装置が脳に埋め込まれている。逆にサーバー上に他の情報を置けば学習せずにピアノだってヴァイオリンだって弾けるようになる。脳が学習したようにな。まぁ脳の機能自体は正常に動くから、切り離されても死ぬことは無い」


ローズがシャーナス将軍の傍に寄ろうとするのを、後ろ手を引いて止める。

ウェーブのかかった長い髪が揺れて、俺の胸に飛び込んでくるローズを抱き締めた。

鼻をすする音、背中を掻き毟る指、俺と同じシャンプーなのに酷く甘く感じる。

肩をすくめて欠伸をするシャーナス将軍は、面白くなさそうに大きくため息をついた。


「まぁ、この場で連れて行かずともいいか。余計な護衛が居るし…時が来ればまた呼び戻す。それまでは…三月兎と仲良くしてるんだな、アンネローゼ。嗚呼、ウィリアムそいつに妙な事はするなよ?」

「どういう事だよ…それ。ローズに一体何があるんだよッ!」

「私達は総称してそれらを“黒羊”と呼ぶようにしている。他に二人…いや三人か。同じような子供がいる。マーク初代当主の種子を核として造られた人間。だからお前、そいつに変な事すると…ブランシュから消されるぞ?」

「ブランシュって…じゃあまさかローズは…ッ」


ストークスの俺ですらそんな話聞いたことも無いし――何より理由は一体何だ。

マークには現当主と次期後継ぎが選抜され、親族の間で緊張感が保たれている状況。

しかしシャーナス家の当主は、風変りな目の前の将軍である事実には変わりない。

当主としての業務に追われているはずなのに、優雅に紅茶を飲みながら軍務をこなしている。


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