独:Der Alte würfelt nicht.
「駄目だよ。こんなに似合ってるのに。せっかく作ってあげたんだから、それ付けてないと話なんて聞いてあげないよ?それでもいいんだアリス?」
「…貴方、性格悪いわ。そろそろ本題に行きたいのだけれど。そうね、まず貴方が何者か教えてもらうわ」
「僕は――君の王子様だよ?」
「…はぁ、差し詰めクローバーの王子様ね。こんなに一面に囲まれてるんだもの、頭の中がお花畑な素敵でハッピーな溜息しか出ないわ」
何を間違えて、こんな状況になってしまったのだろう…?
目の前にいる青年に気づかれないほどの小さなため息をつき、瞼を伏せる。
もうやめることのできなくなってしまった愛想笑いも、苦笑に変わるのは時間の問題のようだった。
「違うよ、僕はハートのJだ。まぁ、呼びにくいと思うから――僕のことはカノンって呼んでよ。親しみと愛情をこめてその可愛い唇で、さ」
「カノン、貴方は――」
「ん。なんか違うな。カノンは無しだ。カノン君って呼んでよ、その方が恋人同士みたいで呼ばれた僕もドキドキするからね」
「……………カノン君。私の事は何と呼んでもいいから話を先に進めてもいいかしら」
「何だいアリス?その可愛い眉間にしわが寄っちゃってるよ??」
目の前の青年は愛玩動物でも愛でるような瞳で私を見ている。
はたから見れば仲のいい恋人同士に見えるだろう。
しかし、実際、出会って1時間と経っていないとなれば、話は別になる。
そもそも、私がここに居て彼に会っている理由には立派な事情があった。
「ねぇ、カノン君。優しく聞くから、答えてほしいな」
「うんうん。やっぱりその名前の響きが新鮮でいいな。女の子に名前呼ばれるっていいよね、幸せな気分だよ」
「貴方はいつ、どこで生まれて、誰が配偶者なのか。DNAのデータも欲しいから、よければIDの内部情報をコピーさせてほしいの。どこの戸籍に登録されていて、現在の所属している団体及び宗教についても聞かせてほしい。それ以外には現在の住まい及び、黒羊としてアノ施設から逃げ出した経緯もお聞かせいただけると助かるわ。あと――」
「…何だ、積極的。照れ隠しだったんだね。僕の事をそんなに事細かく執拗に知りたいなんて、ドキドキしちゃう」