独:Der Alte würfelt nicht.
――色々と含ませるわね、この人。
レイに黒羊の一人と会うように言われ、わざわざ出向いたというのに彼はそんなことお構いなしだというように話を続ける。
栗色の髪が風になびいて、柔らかなエメラルドの瞳が光に細められる。
レイに引けを取らないぐらいの端正な顔立ちが無ければ、一刻も早く事の場から離れていただろう。
でも、それをしなかったという事は…彼の性格を抜いた彼の存在が私の本能に容認されたというわけであって。
つまり…その、本当に“顔だけは”王子様と言って過言ではないという事だ。
「…貴方、喋らなければいいのに。よくそう言われない?」
「さぁ?だって僕、“この前施設から逃げてきた”ばかりだから。あまり他人と面識が無いんだ。でも君がそう思うってことは…そうなんだろうね」
「自分で認めるのね。…なんだか悪い気がしてきたわ。きっと貴方の内面にも素晴らしい部分があるのだと私も誠心誠意信じるから、気を落とさないで」
「あはは、出会って一時間も経ってないのに僕の性格を全否定して、それでもなお持ち上げてくるなんてさ。君は面白いね。だからあのレイ・シャーナスも君を飼い猫として傍に置くわけ、だ」
――何でこう、含ませるのが好きなのかしら。
口調や癖などというもの以前に、彼のもの言いはまるで私の事を以前から知っているかのようにさえ思える。
私は今日、レイに言われて黒羊No.2に会うように言われた。
名目は他の逃げ出した黒羊の保護のためだけれど、私自身黒羊というものがあまりつかめない事もあった。
こうやって言葉を交わしていても、私たちと一体どこが違うのかと問われても…きっと私は言葉に詰まるだろう。
そう思わせるほど、彼の存在は自然だったのだ。