独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
――抜けるような青空は、雨という言葉を忘れるぐらいに青々としている。

芝生の草は太陽に愛され、葉の先端から茎まで余すところなく輝いていた。

夏へ向けての成長の期待感へと胸躍らせてるように、たおやかな花緑青色の髪を風に揺らしている。

春の名残を惜しむように、草の根の間からタンポポが顔をのぞかせていた。


『ふわふわもこもこタンポポさぁ~ん、風に乗ってどこまで行くの?それは誰にも分からない~っ』


種が誇らしげに白い冠をかぶり、風に乗って飛び散ることを今か今かと願うものも。

そのいじらしさに、指先で茎の部分をつつく。

そうすると待ち望んでいたように、ふわりと大空に舞い上がる綿毛。

傘を裏返しにしたようなその風貌だが、遠くへと飛んでいく姿を見送りながら緑陰の下で寝ころぶ。

柔らかな木漏れ日が、ちらほらと見え始めた若葉の間から漏れる。

その陽ざしに目を細め、金糸の髪を芝生に散らして、膝を抱くように眠りにつく。


『――こんなところで、何をしてるのです?』

『ひゃあっ!?』


めまぐるしく時が流れ、頬を照らしていた日差しが、明るいものから夕日色に染められた。

声が聞こえた方を向けば、夕焼けの優しい光を背に、手を差し出す一人の少女。

ふわふわとウェーブの掛かった長い髪は、夕焼けに透けて輝いている。

小さな手の平を差し出す彼女に答え、服についた花弁を払い立ち上がった。
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