独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
『――まったく、そんな出来損ないを連れてくる気がしれないね。俺は反対だよ。君がオリジナルだからと言っても、俺の許可なしにここに連れてくるなんて』

『うるさいのですよ、白兔。お茶会は楽しく、みんなでやりましょうなのです。アリス、隠れてないで出てくるのです』

『ッ!?アリスなんて贅沢な役名、この出来損ないには勿体ない!こんな奴にはアヒルで十分だ!』

『アヒルなんて女の子に使う物じゃないのです。彼女はアリスなのです、白兎』


きっと私達は冷たい試験管の中で生まれて、誰にも愛されずに“人の形”になった。

いくらこの目が開かずとも、何万という知識を植えつけられた私達にはその事が当然のように理解できた。

あまりに早く自我が芽生え、誰も居ない暗闇の世界に居続けることは苦痛以外の何者でもなかった。

毎日のように膨大な情報量を処理し、整理するだけの為に存在する私達。

その中で自らの世界を展開し構築することは、パンドラのシステムを自らの指先と同じように使えた私達にとって容易だった。


『随分と楽しそうじゃないか。僕も混ぜてくれないかな』

『ハートのジャック!会えて嬉しいのですッ!』

『僕も会えて嬉しいよ。白兔も…元気そうで何よりだ。と・こ・ろ・で!!そこの可愛い子ちゃんは誰?知り合い?紹介しなよ、ほらほら!』

『ふふ~ん、やっとアクセス出来たのですよぉッ!あれだけセキュリティを破るのが難かしいとは思わなかったのです』

『こいつだけ、な。処理速度も遅いみたいだし。なんか余計な物が入ってっか、ウィルス塗れなんじゃねぇの?』


銀の近いクセッ毛の髪と、ルビーのような真紅の瞳を持つ白兎は、悪態をつきながらスプーンを鳴らしている。

それを咎めるように、ふわふわの髪でサファイア瞳の眠りネズミが頬を膨らませた。

ブラウンの髪を揺らして、エメラルドの瞳を細め二人の楽しい掛け合いに上品な笑い声を上げるハートのジャック。

そしていきなりつれて来られたお茶会に戸惑いながらも、少なからず期待感に胸を躍らせる私。
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