独:Der Alte würfelt nicht.
「――どちらがいい?」
「………………………………違いが分からないのです」
「いや、わかるだろう。ミニハットのリボンの色がルージュストロベリーにチェリーローズだ。ハットの色は一緒だが質感がベルベットとシルクだ。円形のヘッドドレスと…ローズ、聞いてるのか?」
「ローズはお洋服は何だっていいのです。ウィルの持っている物の用途が分からないのですよ。何に使うものなのですか?」
小さな耳に柔らかい髪をかけて、長いリボンをあごの下で結んだ。
ハニーブラウンの甘い色合いと混じって、深い赤とのコントラストが美しい。
首を傾げた時に乱れた髪を手櫛で梳きながら、散ってしまった前髪を整える。
大きな瞳がキョロキョロと行き場の無いように泳いでいた。
「ぬぅう…首が苦しいのです。実用性に欠けるのです、お日様の光も遮れないのです。頭が…重いのですよ」
「可愛いよ。髪に合ってる。人工太陽が暑いなら日傘を差せばいいだろ」
「わあっローズはこれがいいのです!ほら、帽子の縁がとっても大きいので、広範囲カバーなのです!防水加工済みで、広範囲の光遮断なのです、しかも今ならレトロなサングラス付きなのですよ~」
「こちらのニットも捨て難いな…水色の毛糸で縫ってあるしギャザーにも芸がある。なによりリボン先のポンポンが可愛い。これも買おう」
ローズが手に持って俺にアピールしている縁が広めのキャップを受け取り、丁寧に棚に戻す。
あまりに場違いな物を手に取ったローズに飽きれながらも、手に取ったものを片っ端から店員に押しつける。
先ほどから後ろを付いて来つつ、何やら説明を繰り返しているようだが買うのはその本人の意思だ。
軽くあしらっているうちに何も喋らなくなり、俺が渡した商品を丁寧に畳んでいるのが見えた。