独:Der Alte würfelt nicht.
「おい、お前…何して――ッ!ローズ、やめろッ!!」
「――ッ止めてください、ご、ごご、…ッごめんなさい!!ごめんなさいッ!!ローズはいけない子でした、だから謝るのです、ごめんなさいぃいッ!!だからお願いします――蹴らないでください、殴らないでください!!痛いのは嫌なのですだからだからだから――ッうああぁあァアあッ!!」
「落ち着けッ!!何なんだ、何が怖いんだッ!?何があったんだよ!!」
「ご、めんなさいッ!!帽子屋の言う通りにしなかったローズがいけないのですッ!!あの時ローズが“じぃっとして”息を殺して、気持ちが悪いのを一杯我慢すれば…すればッ!!きっとあの人はあんなことにはならなかったのです!!お腹が裂けてベチョベチョぐちゃぐちょに成らずに済んだのにッ!!ローズの所為なのです、うあぁああああッ!!」
万年筆の鋭利な先端がローズの白い首元を容赦なく抉る。
俺はすかさずローズの腕を掴み上げて、手の平の握られていた万年筆を奪いとった。
首筋の傷は幸い深くなく、血がにじむ程度だった。
両手首を掴み上げてこれ以上何もしないように拘束するが、それから逃れようとローズはじたばたと暴れる。
これでは埒が明かないと思い、ローズを床に押し倒して無理やり俺の顔を見させた。
「いい加減にしろッ!!何だッてんだよッ!!ローズ、俺の話を聞け!!」
「――ッみんな、みんな死んでしまったのです!!きっとローズが殺してしまったから、だからだからッ!!…だから、…だからローズは…きっとアリスの事も…救えないのです」
「救えないってどういう事なんだッ!お前は、お前は一体――」
「…白兎に会いたいのです。白兎に…きっとローズのことを叱ってくれるのです。会いたい、会いたいのですッ…白兎、白兎ぃいッ…うぅう、ううッ…」
泣きだしてしまったローズの体を起して抱き上げる。
俺の腕の中にすっぽり収まる小さなローズの体は、可哀そうな位に震えていた。
始めから情緒不安定だと思ってはいたが、たまにこうやってパニックを起こす事がある。
爪を立てられた背中は痛みを感じるほどだったが、彼女の気持ちが少しでも晴れればと我慢をした。