独:Der Alte würfelt nicht.
「うーん、綺麗なすべすべお肌。何色かな~」
「……なぁにが…」
「げ」
「何色だってぇ…?」
勢いよくカノンの顎を手の甲で押しのければ、「ぐえっ」と変な声を上げた。
ギョッとした表情をするカノンと目が合い、両手を伸ばして彼の頬を力一杯にひねり上げる。
乱れた衣服を治し、シーツを頭からすっぽりと被って下から睨み付けてやる。
乾いたカノンの笑いが病室に響き、ムードもない中で私は完全に脳を覚醒させた。
「――よかった、意識を取り戻したんだね!嬉しいよ」
「白々しいと罵って欲しいの?それとも残念だったわね、と皮肉を返した方がいい?」
「…両方を頂戴するよ。ここで渋ったら男じゃない」
「よく言う」
寝癖がついた私の髪に指を滑らせるカノンは、嫌味を楽しそうに聞いている。
病室を見渡せば、私の部屋にあった枕や毛布にぬいぐるみまで置いてあった。
生活必需品も揃えられ、棚には読みかけていた漫画や単行本もある。
病院のものでない寝間着やタオルが脱衣籠に入れられているのを眺める。
壁に掛けられた制服は丁寧にクリーニングまでされていた。
「…まったく、いけない子だ。起きたら教えてくれればいいのに」
「だって…その、タイミングが」
「起きるのにタイミングが必要なんだ?」
「…う、うるさいな…。こう、感動的なものを期待してたの。よくあるでしょう、映画とかで…」
「ん、なるほど。アリスってそういうのが好みだったんだ」
逞しい腕が腰に回り、体に衝撃を最低限与えないように天井を向かせられる。
大きな手のひらが私の視界を覆えば、自然と目蓋が下りていく。
ベッドのスプリングがギシッと音を立てるのを聞き、カノン君が腰かけたのを肌で感じた。
私の頬を撫でる彼の髪がくすぐったくて、身を捩れば優しく押しあてられる熱。