独:Der Alte würfelt nicht.
「怯えた顔も可愛い。そろそろ本題に入ろうか。“君はいい具合に忘れてる”みたいだし。僕が誰なのかもきっと判断できないだろうから」
「――何の、話を…」
「きっと僕の話より、君の話の方が数倍楽しいと思うんだ。君にとっても」
「貴方、何を言って――!?」
小さく拳を握り締め、必死で動揺を隠すが、彼の瞳が私を射抜くたびに、瞳が揺れてしまった。
気づかないうちに強く唇をかみ締めていて、まるで私がこれから紡ぐ言葉に警告を出している。
汗まみれになった拳を解き、息を大きく吐く。
悲鳴を上げていた唇を緩めようとしていたら、彼は先ほどのように微笑んだ。
「それはまた今度。僕は君の味方だよアリス。この先きっと、“君にとって耐えられない”事が山積みだから。黒羊の問題よりも、君自身の心配をした方がいい」
「だから、だから何の話を――!!」
「賽は投げられた。君は証明しないといけないんだ、“神様はサイコロをふらない”ということを」
「貴方はさっきから一体何を言ってるの!?私は一体何に巻き込まれているというのよ――ッ!!」
カノンの身体が私から離れ、翡翠の瞳と至近距離で視線が交わる。
羞恥の感情は無い、その瞳はあまりにも大真面目で、美しかった。
それゆえに自分の意見が彼に届かず、この歯がゆい感情を感じずを得ないのが悔しい。
指先を絡め取られて、左手の薬指に先ほどの四つ葉が巻き付けられる。
「答えのある問いに意味は無いと思わないかい?」
「答えなんて…無いから貴方に会いに来たのに――ッ!」
「…君に、協力を仰ぎたい。僕と共に、僕らを救うために。僕には君が、…必要なんだ」